傍目八目

日々の思いをつらつらと

「おんなごころ」・エッセイプラスちょっと創作


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「私って、わがままかな?」
「私って、老けてみえる?」
「私って、きつい?」
「若いときから、化粧って嫌いだから、だけど、そろそろ真面目に手入れする必要あるのかな?」

それは嘆息のようでもあって、返答を求めている質問のようでもあって。

「わがままではないと思いますけど、圧力が強いイメージがあるかもしれません。老けては見えません。逆です、若々しいですよ、アクティブですし。」

元気がない。いつものベリーさんではない。気落ちしたような、心持ち頬がこけたようにも見える。

「なんかさぁ、、歳には勝てないよね、、、若いって、いいよね、、更年期なのかな?」

いつも強気で、ぐいぐい仕事を押し進めて、男も女も関係なく、公私を混同するなと指導して、私にとっては、ベリーさんがいなかったら、現在の自分はないとさえ考えている。大切な指導者であって。

出会った初日から、バツバツと直球で叱ってくれた。周囲の人が皆、多少は遠慮している雰囲気の中で、ベリーさんだけは違った。

「ここは、職場なんだからね!」

「お上品でなくていいの! どこの大学とかさ、留学経験とか、研究機関とか、、いーい!? そんなのは、関係ないから!
給料分をしっかり働いてくれたら、それでいいの!」

私は最初、変な人だと思った。正直なところ。世の中は厳しい、私のような世間知らずには、生き馬の目を抜くようにも感じるだろうとは随分と周囲の人に言われていたので、初日から、まあ、変な人がいるものだ、くらいの気持ちだった。


ベリーさんは、父が私の指導者として選んだ人で、それから毎日、毎日、手厳しい指導があり。しかし、私は3日もするとベリーさんが大好きになった。裏表がない物言いは、社員であろと外部の人であろうと変化することなく。行動力があり、言葉にウソがない人だった。

男の子2人のお母さんで、ご主人はお堅いエリート役人さん。母親としても妻としても超、超級で頑張っていたはずで。少なくとも、私はベリーさんが弱音を吐く姿は初めてだった.。

「旦那がさ、、なんかさ、」

あら、仕事じゃなく、家庭のことが原因なのだろうか、ご主人はとっても静かな人で、ベリーさんの迫力を一手に引き受けているような、おおらかな包容力のある人のはずで、まさか夫婦喧嘩などありそうもなく。

「旦那がね、私のことを古女房って、、そりゃあ、古いさ、子供2人産んで、もう上は中学生だからさ、古いよ、、古女房だよ、、息子にまで言わなくてもいいのに、、古女房、古女房って、食事中も、、あー、気が滅入ってさ、、更年期かな?」

私は、ベリーさんの気持ちがちょっと理解できました。たった一言ですが、悪気なんて、さらさらないはずの、つい口から出た言葉のはずですが、長年連れ添った仲良し夫婦だから、ふと口から出たのでしょうが。
女性はホルモンバランスが崩れる瞬間がありますから、普段だったら気にもしない言葉でも、深く傷付くことがあります。

ベリーさんは、性格も見た目も、男性的ですが、本当の姿は、誰よりも女性的で、大学時代からの長い付き合いの末に結婚したご主人のことを、とても愛しているのですね。もうすぐ、50代に突入するとはいえ、ご主人に対する気持ちは、学生時代そのままのようです。

この『古女房』という言葉は、決して悪い意味ではないはずですが、私の知人で、『古女房』と言われたというだけで、数ヶ月別居していた人がいるので、なんとなく、ベリーさんの気持ちは理解できました。

ベリーさんは、お子さんがいますから、あら、ムッとするわ、さて、別居しなくちゃなどと家を出ることも出来ませんから、余計に気持ちがふさぐのでしょう。


言葉って、難しいものです。悪気がないから不用意に口にしてしまうのでしょうが。

頬がこけるほどに、ベリーさんをまいらせているのであれば。
放ってもおけず。ベリーさんのご主人が勤める役所に電話を入れ、少し話をしてみました。思った通り、ご主人は、そんな言葉で傷ついているなどとは、思わなかったそうで。

元来が非常に和気あいあい、明るいオープンな家庭ですから、ご主人と2人のお子さんは、ベリーさんに謝ったそうです。ごめん、ごめんなさい、全然悪気じゃなくってさ、ママが気にするなんて思わなかった、ごめんなさいと、大々的に謝ったそうで。

ベリーさんは、元に戻ったようにも見えます、が、時折、

「若いって、いいよね、先があるからさ、、、」

などと、呟くようになっていて。

母に話すと、頑張ってきた人ほど、更年期障害的なものが、激しく出るものだから、ご主人には女性の心身の変化を理解するように伝えておくとよいと言われました。


愛している人の言葉だから気になるのでしょう。
大切に思っている人の言葉だから傷ついてしまうのでしょう。
血を分けた我が子の言葉だからこそ、深く気落ちしてしまうのでしょう。

ホルモンバランスの乱れという表現を最近よく耳にしますが、その表現そのものに腹を立てる人もいますので、迂闊に言葉を吐けなくなってしまいます。

たったひとつの、なにげない言葉、馴れ合った仲だからこそ、口から出す時は、吟味したいものです。

 

 


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